甲子園誕生前夜！高校野球第二の故郷・鳴尾球場跡地

豊中グラウンドから鳴尾球場へ

今年（2016年）で101年目を迎える夏の高校野球。前回も書きましたが、101年前の1915年（大正4年）に第1回大会が行われたのは豊中グラウンドで、当時は学制の関係により中等野球と呼ばれていました。

しかし、豊中グラウンドはキャパシティが小さ過ぎて、中等野球人気に対応できませんでした。また、客を運んでいた箕面有馬電気軌道（現：阪急電鉄）は、現在の豪華な阪急電車とは違い1両編成で単線というお粗末なもので、溢れんばかりの乗客をさばき切れなかったのです。

高校野球黎明期の様子が記された鳴尾球場跡地

しかも、現在は主催者が出場校の旅費および宿泊費を負担しますが、当時は各校の自費だったので、滞在費節約のために大会期間の短縮が求められていたのです。

そこで白羽の矢が立ったのが、阪神電気鉄道の沿線にあった鳴尾競馬場です。阪神電鉄は競馬客で大勢の乗客の扱いにも慣れていたし、競馬場なら広いので野球場を2面造れる、即ち試合消化を素早くこなせるという、一石二鳥のアイデアでした。

高校野球（中等野球）が開催されていたことを示す鳴尾球場跡地

そして1917年（大正6年）の第3回大会から、鳴尾競馬場内に特設された鳴尾球場の使用が決まったのです。場所は兵庫県南東部の鳴尾村、現在の西宮市で、当時はまだ無かった阪神甲子園球場より南へ約1.5kmの所にありました。なお、阪神タイガースの二軍本拠地である鳴尾浜球場とは全く別物で、距離も結構離れています。

鳴尾競馬場があった当時と、現在の甲子園周辺を重ね合わせた地図（鳴尾球場跡地より）

教科書にも載っている”事件”により大会中止

現在、モニュメントがある鳴尾球場跡地には、鳴尾球場で開催された第3～9回までのトーナメント表が飾られています。

鳴尾球場で最後の開催となった、第9回大会のトーナメント表（鳴尾球場跡地より）

ところが、第4回大会だけは出場校が書かれているのみで、トーナメント表がありません。実はこの年、全国大会が中止になったのです。

原因は、日本史の教科書にも載っている米騒動でした。富山県魚津の主婦たちにより勃発した米騒動は日本中に飛び火し、全国大会開幕間近だった中等野球を直撃したのです。なお、戦争以外の理由で中止になったのは、後にも先にもこの大会だけです。

人気絶頂だった中等野球を中止に追い込むなんて、当時から主婦のパワーは凄かったのですね(苦笑)。

米騒動のため中止になった第4回大会（鳴尾球場跡地より）

東洋一の大球場建設へ

せっかく2面造った鳴尾球場もまた、豊中グラウンドと同じ運命を辿りました。所詮は急造だったため、スタンドは小規模な移動式の木造で、超満員の観客がグラウンドに溢れ出て試合が中断することも度々ありました。鳴尾球場はもはや限界に達し、本格的な野球場が必要とされたのです。

そこで1924年（大正13年）の第10回大会を機に、アメリカのメジャー・リーグ球場に匹敵する、東洋一の大球場建設を決断しました。それが現在の甲子園球場です。

鳴尾球場の使用は僅か7年に留まりましたが、それでも現在の高校野球人気の礎となったことは間違いありません。なお、甲子園球場が完成する4ヵ月前、名古屋市の山本球場（現在は閉鎖）で春のセンバツ大会の第1回大会が開催されました。つまり、現在まで続く春夏の全国大会が揃い踏みとなったのです。

夏の高校野球で大勢の観客が集まる、現在の甲子園球場

その後の鳴尾球場

鳴尾球場は使用されなくなったとはいえ、競馬場としては存続しました。しかし戦争の影が忍び寄り、太平洋戦争が激化した1943年（昭和18年）に閉鎖され、軍用の鳴尾飛行場として生まれ変わりました。でも間もなく敗戦、戦後は米軍に接収されています。

接収が解かれた後は、浜甲子園団地となりました。鳴尾球場跡のモニュメントはその南側にある浜甲子園運動公園（鳴尾浜公園）内にありますが、実際の跡地は浜甲子園団地です。

かつては鳴尾球場（鳴尾競馬場）があった浜甲子園団地

甲子園へ行った際には、ぜひ鳴尾球場跡地を訪れてください。阪神本線の甲子園駅や、甲子園球場の三塁側を通っている甲子園筋を真っ直ぐ南へ歩いて行くと辿り着きます。少々遠いですが、いい散歩コースです。海に近いので、潮の香りが何とも言えません。

鳴尾球場跡地へ行って、1世紀前の高校野球を体感してみませんか。

2016年7月29日