秘湯シリーズ18〜雑木林と渓流の山里に多彩な露天風呂、黒川温泉旅館山河〜
旅館山河は黒川温泉から少し離れた一軒宿です。広大な雑木林の斜面に深山の渓流を配し、その奥には特徴ある露天風呂があります。趣のある民芸調の建物、地の素材を使った料理、日本そのものの特長が海外の方にも注目されています。
旅館山河の佇まい
黒川温泉の中心地には多くの名湯が肩を寄せています。旅館はどこも露天風呂を持ち、独自のカラーをだすべく工夫を重ねています。ここから、車でほんの少し離れたところにある旅館山河について紹介します。
旅館山河では駐車場から坂道を下っていくと、うっそうとした雑木林の下に建物が見えます。道を灯りが照らしています。ここからが山河ワールドが始まります。
海外のリゾートでも灯籠やガイド灯がよく使われています。頭上から照らすのではなく、足下を照らしているので間接照明になっています。
周りの雑木林の佇まいが山奥に迷い込んだような錯覚を覚えます。昔からこの佇まいだったと誰しも思いますが、実はこの敷地は荒地だったところを館主が長年かけて雑木林に造りあげてきたものです。
そして、かたわらを小さな渓流が流れています。
流れの最初の方は岩を配した急流で、源流に近い渓流を彷彿とさせます。苔むした岩、その周囲を取り巻く植物、灯籠、このアプローチが素晴らしいです。
母屋から露天風呂に行く道では、川幅が広くなり流れは緩くなります。つまり下流を再現しています。苔むした岩の間を清流が流れています。
離れの裏にはさらに下流を再現した流れもありました。このように敷地の中は雑木林と小さな渓流が流れ、山里の原風景になっています。つくづく思うのは日本が森と水の国であることです。
左の苔むした建物は囲炉裏のある庵です。夕刻には薪が燃やされています。山里の情景再現です。
旅館山河
森の中にしっとりと母屋が現れます。
玄関にには「日本秘湯を守る会」の提灯がかかっています。
ロビーは広々としていて、囲炉裏とのほか、奥には薪ストーブもあります。民芸調のシックな館内がとても自然に感じられます。都会の建物は明るい色調のクロス、全面ガラスの窓、明るい照明などが多く、黒い部屋はまずありませんよね。陰影がないのです。
黒色の部屋は狭く感じるものの、逆に心理的な奥行きを感じます。また、間接照明なので暖かな印象を受けます。静かな落ち着ける空間になります。
帳場と廊下と二階に続く階段です。磨き込まれた黒い廊下がいいですね。
ここは離れの二階です。二間続きで数名でも泊まれそうな広さです。
部屋の窓を開けると上流の黒川温泉から流れてくる田の原川です。
多彩な温泉
露天風呂のタイプには二つあります。内湯のすぐ外にある場合と、屋外を歩いて行く場合です。前者の場合は、あくまで内湯の延長に露天風呂があるので気持ちは切り替わりませんが、後者の場合は、別の世界に行く気持ちになります。
特に、旅館山河では渓流に沿って露天風呂に着くので、あたかも深山の露天風呂に行くような感じです。
男性用の露天風呂です。雨上がりの冷気の中で湯気が立ち上り、黒川温泉独自の少し濁った青緑色です。香りはほんのり硫黄系でしょうか。
こちらは女性用の露天風呂です。お湯の色が写真では少し暗くみえますが実際は男性用とほぼ同じです。
こちらは家屋露天風呂の「六尺楠風呂」です。直径六尺の楠製の露天風呂、水面に映った樹木の緑が綺麗です。窓の外の森を見ながら、ややぬるめの湯船に身を任せていると、ついため息が出てくる至福の一時です。
このほか、旅館山河には女性用露天風呂「四季の湯」、内湯には「大岩風呂」「切り石風呂」「檜風呂」がありますが、最後に紹介するのは、離れの部屋にある湯船です。
窓の外から差し込む光が、お湯を青く染めていました。山河のお湯は青緑色の濁り湯と思っていましたが、注ぎたての源泉は青かったんですね。まるで「青の洞窟」のような幻想的な温泉です。
料理
料理は食事処でいただきます。
食前酒、秋の味覚、旬菜がセットで出てきました。器や盛り付けがいいですね。
よく焼かれたヤマメの塩焼き(4人分)がドンと出て来ました。全体が柔らかく頭まで食べらます。
続いて、阿蘇赤牛のステーキ(写真は一人分)は脂身が少なくヘルシーなのでオススメ。このほか、馬刺し、湯葉、蒸し物、鶏団子、デザートもしっかり出て来て満腹です。
朝食もフルセットで出てきました。ちょっとご飯が多いいのでは?と思ったものの結局2膳いただきました。 いんげんの和え物、だし巻き、ふっくらシャケが美味です。食後のコーヒーをロビーでいただきました。
黒川温泉ものがたり
黒川温泉は町全体のテイストが統一統合されています。かつてはごく普通の温泉街だったのが、なぜそこまでできたのか、について紹介します。
再生される前の温泉街にはかつては大きくて派手な色の個人看板が周辺に300本ほども乱立していたそうです。それらをすべて撤去し、景観に合うようなシックな共同看板が作られました。
次に旅館と旅館の間にあったブロック塀を取り壊して雑木を植えました。つまり山の自然があたかも温泉街を包み込むように引き入れて一体感を出しました。
その雰囲気は「田舎らしさを活かし、昔からこうだったんだろうな」と感じさせる統一感を醸し出すように建物の外観や色を工夫されたそうです。「作為性がない素朴さ」を押し付けがましくなく造られたことになります。
最初の再生コンセプトは「黒川温泉離れ屋点在構想」、これは物理的な配置を言葉にしたものですが、行き着いたコンセプトは「黒川温泉一旅館」=「道は廊下、各旅館は部屋と考え、黒川温泉の全体を『一つの旅館』と捉える」というビジョンでした。
各旅館の意見は、最初は多種多様でまとめるのに苦労されましたが、お客が増えるにつれて賛同者が増えていったそうです。つまり、結果が重要です。この再生は全国の温泉街が参考にするようになりました。この運動をリードされた方々の一人が山河のご主人です。
おわりに
実は山河は今や国際的になっています。宿の中で行き交うお客さんを観察すると、外国の方が三割以上、宿泊した日も少なくとも三ヶ国の方が滞在されていました。
秘湯シリーズ16で紹介した山形県銀山温泉でも、海外の方々が雪に埋もれた温泉街の佇まいに魅了されていました。
日本では豊富な水と渓流、それを生かした温泉旅館はどこにでもあります。逆に水や森が、他の国では必ずしも当たり前ではありません。そんな雰囲気の中で日本式の温泉を楽しんでもらえれば嬉しいですね。どこの国の方であれ温泉の中では心身がのびのびと癒され、国同士のように喧嘩がおこることもありません。
(この記事はブログ「秘湯感動紀行」を加筆修正再編集したものです。お気に召せばどうぞお越しくださいな。)
2017年6月23日