秘湯シリーズ3〜極上の湯が溢れる一軒家・うぶやま温泉やまなみ〜
阿蘇山の北、久重山の山麓にある一軒家の秘湯。黒川温泉の温泉街を堪能した後に一軒家が恋しくなったら訪れたい、源泉掛け流しの宿です。適温・アルカリ性・透明の湯がすばらしく、露天風呂は佇まいがシックで内湯は多彩。家庭的なサービスと漬け物もなつかしい。
宿の佇まい
玄関は小さな木立の中にあり、秘湯の入り口はかくあるべしという奥ゆかしさ。部屋は11室で宿泊者数は限られます。特筆すべきは階段がないこと、つまり平屋です。その特長を生かして中庭を造るなど落ち着いた雰囲気を醸し出しています。宿の周囲は開放的ですが、宿そのものはしっぽり感があり足を踏み入れると秘湯らしさがあります。
玄関の左手には清冽な川が流れています。この上流が池山水源で、やまなみハイウェイのすぐ近くです。
玄関脇には源泉がそのまま掛け流され湯量が豊富です。昔の産山(うぶやま)村は農業主体で「民宿の里」をうたっていました。「民宿やまなみ」が意を決してボーリングし1000メートルの地下から平成18年に最高のお湯を掘り当てました。
外風呂
露天風呂「四季の湯」は常時は女湯で、男女入れ替えになります。男性は限られた時間(19-22時)しか入れないのは実に残念。いや女性は全然残念ではありません。結局この宿は女性を厚遇しています。
湯舟から溢れる潤沢な掛け流しのお湯は湯温がちょうど良い。源泉温度が約45度だから、湯舟に注がれたお湯はちょうど適温になります。しかも弱アルカリ性(pH9.1)なので肌に心地よく思わず長居してしまいます。
母屋の外にある「かぼちゃの湯」は男湯です。デカイ!天井の巨大な梁が威張っていて湯舟はコンクリート?と岩で固められた湯舟です。でも湯船の中は広くはありません。外からの光が湯舟の底に差し込んでいる佇まいに落ち着きます。
多彩な内風呂
「つばき」は樽を使った円形の風呂、樽を使うのは熊本県や大分県では見かけます。私は大好きです、そもそも四角より丸がいいに決まっています。
「やまぼうし」は完全な石造りの湯、石は保温効果があるから一旦温まると冷めにくい。小さいが居心地はいい。
「こなら」も少し小さめの湯舟。これら3つの内風呂は24時間入ることが出来ます。
夜に突然目がさめることがありますよね。というのは夕食後に満足して寝入ってしまうから。熟睡すると夜中に目がさめてしまう、そんなときぐずぐずと寝床を暖めず、潔く風呂に行きます。夜中の風呂はさらに静かです。完全に目が覚めますが、再び寝転がっているといつの間にか寝入ってしまいます。体がむしろ正常になるのでしょう。
「田舎の湯」は家族風呂で、屋外の露天風呂の横にあります。ただし外なので夜中は入れません。佇まいは武家屋敷風といった感じです。
館内と漬物
母屋を出ると露天風呂の横に薪小屋と囲炉裏があります。囲炉裏が煙を上げています。懐かしい情景の再現ですね。
緑の木立に囲まれた中庭には、鶏が放し飼いされています。つまり、昔のままの日本の原風景を再現しています。動物は動きがあって飽きません。日本の50年前、庭で鶏を飼うことは珍しくはありませんでした。というのは貴重なたまごも採れたからです。鶏さんはたまごを人間様に差し上げた挙句、最後は焼き鳥になってしまうのはかわいそう。
磨き込まれた廊下はしぶとく光っています。
こちらも磨き込まれた食事処。全てが木調というのが暖かいもの。夕食をここでいただきます。朝食は別の部屋。
夕食・朝食ともに、地元で採れる野菜類、約30種を漬け物にしてバイキングにして出しています。これも地元の知恵と文化ですね。小規模の宿ゆえに家庭的なサービスがうれしいもの。漬け物というのは野菜だけで、当然、肉や魚ではありません。塩分に気をつければヘルシー、それでついつい食がすすんでしまうのは困ったもの。
池山水源
産山村の最大の見どころは「池山水源」です。阿蘇外輪山と久住山に囲まれた平地にこつ然と大量の湧水が溢れています。火山岩は水を通しやすくすぐに浸透してしまうので、九重・阿蘇地域には火山岩のはずれには多くの湧水があります。
森の中に湧き出る圧倒的な水量と透明さに心洗われます。
池の底には緑の藻がうっそうと茂っていてまるで森。「まるで」ではなく水の中の正真正銘の森、光合成で酸素を出す地球の母だ。
おわりに
かつて観光資源が限られていた中で、地下から温泉を掘ったのは館主の心意気だと思います。お湯は新鮮で湯温もちょうと良く、アルカリ性の湯は肌に滑らかで、特に女性に評判が良いようです。ここまで恵まれた湯は少ないもの。
民宿から秘湯の宿への転換は、かなりの勇気が要ったにちがいありません。温泉が自噴していなくともやればできる、村おこしにも貢献できる、そこに日本の地方の将来も見えてきます。
最後にエピソードを一つ。早朝に宿の近くを散歩していたら、出会った方からきちんとした声で「おはようございます!」と声をかけられました。山里でごくたまに出会うできごとですが、その一言で「今日はいい一日になるな…」と思わせていただきました、感謝。温泉、水、人、すべてがとても気持ちのよい村です。
(この記事はブログ「秘湯感動紀行」を加筆修正再編集したものです)
2015年11月9日